※この記事の著者が今シーズン磐田の試合を実際に見ていない(ラジオで聴いていた)ということを前提に読んでいただければと思います。
目次
はじめに
「まさか自動昇格という未来が待っているとは思わなかった」
これがシーズンを終えて感じた率直な気持ちです。
2022シーズンは、J1に完膚なきまでに叩きのめされた。
言い訳すら思いつかないくらい、磐田というクラブがJ1基準では”弱いチーム”であることを現実として突き付けられました。
しかし、そんなチームに更なる追い打ちがありました。
ファビアン・ゴンザレスとの契約の際に不手際があり、それにより1年間の新規選手登録の禁止が決定しました(実質の補強禁止)。
当時東京国際大学の師岡が磐田に内定していたが、加入しても1年試合に出れないという状況を受け入れてもらうわけにはいかず、内定を取り消すという前代未聞の事態になりました(後に鹿島に内定)。
補強もできなくなるし、来るはずであった未来ある若手選手も来ないという現実。
新戦力はユースから昇格した後藤啓介(当時高2の17歳)のみで、後はレンタルバックのみでした。
さらに新監督は、日本代表のコーチをしていた横内昭展(以下横内監督)が就任することになりました。
監督の経験はなく、さらにJリーグのトップカテゴリーでの現場仕事も初めてということでした。
さらに就任が決定したのは、日本代表のW杯が終了した後で、キャンプが始まるまでの準備期間は僅か1ヵ月ほどでした。
選手の情報も知らない、自分が欲しいタイプの選手も補強できない。
これだけの不安要素がある状態で、今シーズンの磐田はスタートしたのです。
補強禁止
補強禁止という多くのサポーターが経験せずに人生を過ごすであろうことを経験したので、それを通して感じたことを残しておきます。
デメリット
磐田が自動昇格したことで「補強しなくても求める結果を得られるんだ!!」とか「補強せずとも磐田は結果(自動昇格)を残したぞ!!」という悪しき例を作ってしまったのではと思うところがあります。
まず結論から申し上げますと、補強禁止によって、メリットがデメリットを上回るということは基本ないです。
開幕時にいた純粋なCFが杉本健勇、ファビアン・ゴンザレス(以下ラッソ)、後藤啓介という3人のみ(大津とジャーメイン(開幕当時)は2列目のアタッカーという印象)。
ラッソは、FIFAの制裁により4ヶ月間出場停止。
後藤が開幕当時高校2年の新人選手であることを考えると、計算できるCFは杉本健勇のみという状況。
さらに、3/21に杉本健勇のマリノス移籍(期限付き)がリリースされます。
磐田のFWの数、契約途中であることを考えれば、この状況で移籍の許可を出すというのはにわかに考えにくく、今でもこの移籍がどういう経緯で決まったのか謎ではあります。
ーシーズン序盤で杉本健勇選手が移籍した。
「(現有戦力で)なんとかなると思った。苦しんでいる彼と近いところにいた。試合状況と彼のプレー時間をイメージした中で、みんなにとってベストの選択になるんじゃないかと思って。みんなに相談して本人に相談してこういうことになった。彼にとってもすごいいいチャンス。結果的に後藤啓介が出るチャンスが増えたのは間違いない」
さらに4/23の金沢戦で大津祐樹が全治5ヵ月の怪我を負ってしまいます。
結果的にジャーメインがCFとして成長していくのですが、ラッソが使えるまで、ジャーメインと後藤の2人で回さなくてはいけないという厳しい状況です(後藤も怪我で1ヵ月ほどいない時期があった)。
最終的に得点に関しては一人の選手に依存しない状況で積み重ねることになりました。
二桁スコアラーがいないで、自動昇格するというチームはかなり珍しいのではないかと思います。
良く言えば特定の個人に依存しなかったとも言えますが、裏を返せば多くのゴールを生み出せるスコアラーがいなかったとも言えると思います。
もし、補強ができる状況であったら、おそらく夏にゴールを期待できる選手を獲得に動いていたと思います。
振り返りながらこの記事を書いてますが、本当にこれでよく上がれたなと思います。
メリット
先に述べたように補強禁止(補強をしない)ということは到底おすすめできることではありません。
しかし、そんなイレギュラーな状況になって気づくこともありました。
若手選手を起用することの重要性
今年の磐田における若手は、後藤、古川、藤原の3人です。
古川は昨シーズンから少しずつ試合に使われていましたが、後藤と藤原に関しては、果たして補強禁止というイレギュラーな状況になっていなければ、今シーズンのように試合に使われたのだろうかと思うところがあります。
ここ10年くらいの磐田を見てきた印象としては、若手の起用にかなり慎重で、経験ある選手を起用する傾向があったように思います。
もちろん、ポジションとは奪うべきものではあるのですが、クラブの文化や監督が若手を起用することに躊躇のないタイプなのかというのは大きく影響します。
横内監督が仮に補強ができる世界線でも後藤や藤原をリーグ戦で使ったのかはわからないですが、遠藤や山本康裕といった経験や実績が藤原に比べれば頭2つも3つも抜けているベテラン選手よりも、藤原を選択し、かつJ2というプロの舞台で一定のパフォーマンスを残したというのはいい意味の驚きを与えてくれました。
磐田がお金でチーム強化を解決するようなクラブ規模でないことを考えると、今回のように若手を使うことに前向きなチームであるというのは、今後一つのアイデンティティとして残って欲しいと思いました。
選手の評価
今シーズン期限付き移籍から、針谷と藤川が戻ってきました。
針谷は2021、2022と北九州(J2、J3)へ、藤川は2021年途中から熊本(J3)、2022は針谷といっしょの北九州(J3)へ期限付き移籍していました。
試合を常にチェックしていたわけではないのですが、2022シーズンの北九州でのプレーぶりからすると、正直補強禁止がなければ磐田に戻ってきたかも怪しいと思っていました。
試合には出ていましたが、J3で際立ったプレーをしているかといったら、その印象はありませんでした。
J3で目立った活躍ができなかった選手が、果たしてJ2(しかも一応前年はJ1のクラブ)で戦力になるのかと懐疑的に思ってました。
(心情としては高卒で磐田に入ってくれた選手なので活躍を願っていました)
しかし、結果的に二人とも戦力になることを示してくれました。
針谷は前半戦はスタメンで出ることが多く(途中から出番は減りましたが…)、藤川も杉本の移籍やラッソの出場停止+怪我もあり、出番の多い1年でした。
正直、出番すらあるのだろうかと思っていたので、選手のパフォーマンスというのは使ってみないとわからないことも多いんだなと思いました。
(残念ながら針谷は2023年で契約満了となってしまいました)
なぜ昇格できたのか
理由はいろいろとあると思いますが、個人的に感じた4つの理由をあげます。
横内監督(+スタッフ)のマネジメント
今シーズンはこれ抜きには語れないでしょう。
戦術がどうとかは試合を実際に見ていない私には語れないのですが、マネジメントが凄かったであろうことは、外部から得られる情報でもわかります。
観察力が凄いのか、選手をよく見て、かつその評価が非常に平等で納得感があるのではと思いました。
連戦のときにターンオーバーしながらも結果を出せたのは、選手の特徴をよく把握していたからだと思います。
また、横内監督は試合後のロッカールームで選手を称えるときにベンチ外の選手の頑張りについても言及しているのは印象的でした。
また昇格が決定した栃木戦のあとのインタビューで、栃木戦に招集していない選手について語り始めた後に涙ぐんでいたのも印象的でした。
後日ole ole jubiloというラジオ番組内で話していたのですが、最終節の栃木戦の日、POに向けてベンチ外の選手は磐田に残り準備をしてくれていて、選手たちをこの場所に連れて来なかった後悔しているそうです。
当然、当時の磐田の状況を考えれば、POをやる可能性は非常に高く、それに向けて最善の準備をするというのは当たり前の決断ではあるのですが、それでもこの喜びを全員で共有できなかったことを思うと涙してしまうあたりに横内監督の人柄が表れているなと思いました。
昨シーズンの遺産
昨シーズン結果は出ませんでしたが、J1の試合を経験して、磐田には強度が足りないというのが監督からも選手からも課題として出ているのは、いろんなコメントからも感じました。
そこを意識してトレーニングもしていたようですが、ちょっと意識を変えたくらいでは強度の基準をJ1基準に上げられませんでした。
磐田の選手の特徴からしても、これはトレーニングや意識の変化だけでは差を埋めるのはなかなか厳しいだろうなとも感じ、なかなかしんどいシーズンでした。
ただ、強度が重要だと感じたメンバーがほぼそのまま残ったこと、また昨シーズン指揮していた伊藤監督のやっていたことを選手が否定的に考えていなかったことは今シーズンに繋がっているなと思いました。
横内監督も強度のところをかなり求めていたであろうことは、シーズンの前半戦から後半戦のメンバーの違いにも出ているかと思います。
強度が一定の基準に届かないとそもそも勝負をさせてもらえないというのを共通理解として共有できていたのは大きなポイントだったと思います。
選手の努力
補強がなくても競争はあります。
とはいえ、結果が不甲斐ないとしても夏に補強でポジションを奪われるという可能性は今シーズンは0です。
そういった状況が選手にどういった影響が出るのかは、個人的に予想がつかないところでした。
これは、横内監督のマネジメント力にも繋がりますが、選手がこのメンバーで昇格を”本気”で目指すというモチベーションで取り組んでくれたことは個人的な想定を超えていました。
ヒデとキトーのFootTALK!というラジオ番組で、ジャーメインが語っていたのですが、選手たちはこの状況をチャンスと捉えていたようです。
結果的にマネジメント力と選手のチャンスというモチベーションが今回はうまく嚙み合って結果に繋がったのだと思います。
清水の停滞
「磐田が文句なしで自動昇格に値した!!」
と自信満々に言えればいいのですが、最終的な順位からしてもそうは言えなかったシーズンかと思います。
特に清水が足踏みしてくれたのは、磐田としては嬉しい誤算でした。
選手の顔ぶれだけを見れば、町田以上に戦力が揃っているとすら思えます。
このチームが町田のように頭一つ抜けない結果だったのは、磐田が自動昇格できた大きな理由の一つかと思います。
来シーズンの展望
編成
シーズン通していろいろな選手を起用したとはいえ、終盤はある程度メンバーは固まってきました。
今シーズンのメンバーは、ほとんどが昨シーズン(J1)を戦った選手で、J1でどれくらいやれるのかがある程度わかっている選手がほとんどです。
J2の中でも、強度で上回れない相手が数チーム(聞いたが限りでは、町田、清水、ヴェルディ、千葉)いたようなので、J1がさらにその部分でレベルが上がることを考えると、この部分で少なくとも戦えるレベルに上げないと戦術どうこういった部分で勝負することすらできないのは痛感しました。
おそらく、ベテラン選手にとってはなかなか厳しい契約になるのではと思います。
磐田が補強しないといけないポジションはおそらく全部です。
確実にJ1でも違いをつくれると断言できるのはリカルド・グラッサくらいで、あとはJ1基準だとレギュラークラスでも普通、やや劣るくらいの選手になってしまう可能性が十分にあります。
もちろん今シーズンで成長して、J1でも十分に活躍できる選手になっている可能性もありますが、J1で即戦力となるような選手は、少なくとも後ろ、中盤、前と1人ずつは欲しいところです。
おわりに
試合を見ていもしないチームに対して感想を書くのもどうかとは思いましたが、それでも今シーズンのチームには書いておきたいという欲が上回りました。
現在(執筆時12/17)はストーブリーグを楽しんでいますが、現状の磐田の立ち位置を痛感するコメントがありました。
獲得しようと決めた選手にオファーを出しても、なかなか来てもらえない現状もある。選手たちはチームを選択する時に「優勝を争えるチームに行きたい」と言う。僕らも優勝を争うつもりだが、そういうふうに見られていない。もう一つステージを上げないといけない。
近年の結果を見れば、こう思われるのは仕方ないです。
エレベータークラブのようなに思われているであろう現状を変えるには、残留を達成しながら、コツコツとクラブ全体がパワーアップしていくしかありません。
2023シーズンは奇跡のような体験をさせてもらいました。
2024シーズンも奇跡が起きてくれたら嬉しいですが、クラブがしっかりと前進しているという姿を見せてほしいです。
そこに結果が付いてくれば最高かなと思います。
来シーズンはJ1だから、テレビ放送があるかもです。
楽しみだな~。
<おわり>