貴田遼河の移籍と後藤啓介と若手の出場機会

2024年1月26日の朝にXからこんなツイートが流れてきた。

貴田は当然知っていたけど、最初に思ったのは「海外に抜かれるほど名古屋で試合出てたっけ?しかも、アルゼンチン!?」ということ。

 

 

貴田遼河

nagoya-grampus.jp

nagoya-grampus.jp

16歳で二種登録をされ、17歳でプロ契約。

育成クラブでない(と個人的に思っている)名古屋がこれだけ早い時期に二種登録やプロ契約をしているだけで、その期待値の高さがわかる。

それで、プロ契約した2023シーズンはどれくらい試合に出ていたのか。

J1

ルヴァンカップ

(画像引用元:【公式】貴田 遼河 | 名古屋グランパス:Jリーグ公式サイト(J.LEAGUE.jp)

リーグ戦12試合(出場時間119分)、ルヴァンカップ5試合(出場時間245分)。

この数字を多いと思うか、少ないと思うかは人それぞれだろう。

おそらく”高校3年生”の選手という目線であれば十分な数字と思う人が多いのでは。

高卒1年目の選手ですら、カテゴリー関係なく試合に出るどころかベンチ入りも簡単ではないプロの世界において、現役高校生がトップカテゴリーのJ1でこれだけ試合に出ているのは選手本人の実力もそうだが、クラブ側の期待の表れにも感じる。

ただ、選手個人の目線になった場合、同じようにポジティブな気持ちかはわからない。

それと、2023シーズンよりも2024シーズンに多く使われるという保証は当然ない。

「ポジションは奪うもの」

と言われるが、個人的にそれは正解でもあり、そうでもないとも思っている。

2024名古屋編成

(画像引用元:分析:国内クラブ分析:jリーグの分析:開幕前編成チェック [Windtosh's Cantina]

この編成を貴田目線で見たときに2024シーズンに試合数の増加を見込めると思うだろうか?

名古屋は、短期的に結果(タイトル)を求めるチームだと思うので、選手補強をすること自体は何ら悪いとは思わない。

しかし、もし貴田に主力としての活躍を計算しているとしたら、これほど前線に補強をしただろうかと思うところもある。

海外志向があり、オファーがあるクラブにはセカンドチームがあり、実戦(公式戦)経験を積める可能性が今よりかなり高くなると感じたときに選手はどう思うだろうか。

 

後藤啓介

www.jubilo-iwata.co.jp

※2022年7月20日天皇杯ヴェルディ戦に出ているので、プロ契約の前に二種登録されてはいたが、具体的にいつされたのかのリソースは発見できず。

こちらも高校2年生の段階でトップ昇格が内定し、2023シーズンからプロ契約が決まった。

さて、後藤の場合、2023シーズンはどれくらい試合に出ていたのか。

J2

ルヴァンカップ

(画像引用元:【公式】後藤 啓介 | ジュビロ磐田:Jリーグ公式サイト(J.LEAGUE.jp)

リーグ戦33試合(出場時間1279分)、ルヴァンカップ6試合(出場時間230分)。

(怪我で離脱していた時期もあったので、それがなければ+200分くらいはあったかも)

貴田とはカテゴリーの違いや競争相手のレベルの違いがあるので単純な比較はできないが、現役の高校3年生がここまでプロの舞台で試合に出るのは、Jリーグではかなり珍しいと思う。

J2とはいえ、これほど活躍した18歳の選手を海外クラブがスルーするわけもなく、冬の移籍市場でアンデルレヒトへ移籍した(夏の段階でいくつかのクラブからオファーはあったけど、磐田の状況も考えてお断りした模様)。

ここで後藤を引き合いに出したのは「後藤に比べて貴田は…」とか言いたいわけでなく、若手の実戦経験に関することを書くため。

ご存知の方も多いと思うが、2023シーズンの磐田は実質的な補強禁止状態で、FWの駒が単純に少ないという特殊な事情があった。

後藤本人の能力があったのは前提だが、そこにプラスして後藤を使わざるを得ないことが重なったことで、2023シーズンの出場機会が増えることとなった。

ただ、仮に磐田が補強禁止でなかったときに後藤がこれほどまでに試合に出るチャンスがあったのか?ということに関しては、かなり懐疑的なところがある。

 

若手の出場機会問題

貴田の移籍は最初はセカンドチームで、活躍次第でトップチームでということだろう。

後藤も、最初はアンデルレヒトのセカンドチームで、活躍次第でトップチームという契約だ(一応1年のレンタル移籍)。

両方に共通しているのは、実戦の試合出場機会がある程度確保されている(出れる可能性が高い)ということだ。

Jリーグの場合、セカンドチームがないため所属クラブで試合に出れないと移籍しない限り実戦経験の場がなくなってしまう。

実戦経験の重要性は、元興国高校の監督である内野智章さんがこんなことをインタビューで語っていた。

「宮原の選手としてのクオリティを信頼している部分もありましたし、ポドルスキ選手が宮原をクラブに紹介してくれたという事情もありました。それに、グールニク・ザブジェはU-19やU-21などのチームも持っていて、試合に出られる環境もあると聞きました。最近は高卒でJクラブに行けても、そこで紅白戦にも出られず苦しんでいる選手も多く見てきましたからね

(引用元:Jリーグを経由せずの海外挑戦は是か非か 前興國高監督が明かす高校→海外の舞台裏 - スポーツナビ

贔屓目なしに高3時では明らかに実力が上だった選手が、3年後に大学に進んだ選手に実力で逆転され、契約満了になってしまったということを聞くのはつらいです。誰が悪いわけではないですが、海外に比べて日本にはまだそういう環境が整っていない部分がある。たとえば(ユースからトップチームに昇格できたのに、筑波大学を経てから川崎フロンターレに加入した)三笘薫選手の話は有名ですが、高卒で即Jクラブに上がって試合に出られない環境なら、日本の場合は大学に行った方が成長できるのかもしれません。もちろん、プロになって真剣勝負の場があれば、絶対にプロにいった方が成長できるとは思うのですが……」

(中略)

「いまの僕があるのは、興國高で頑張ってくれたOBたちがいるからです。そういう意味で、彼らに恩返しをしないといけない。まだ明確な答えはないですが、高校卒業をした若い19歳から21歳くらいの選手たちが、なかなか実戦を経験できていないのを何とかしたい。全然試合に出ていない21歳のJリーガーと試合にバリバリ出ている21歳の大学生では、成長のスピードがまったく違いますから。こんなことを言うとオマエに何ができるんだ、と言われてしまいそうですが、漠然ながら今後はそんなことを改善するようなことができたらと考えています」

(引用元:Jリーグを経由せずの海外挑戦は是か非か 前興國高監督が明かす高校→海外の舞台裏 - スポーツナビ

磐田でも、2024シーズンに大学を経由したユース選手が2人入ったのだが、同時に同期のトップ昇格した選手が2人契約満了になってしまった(2人の選手は磐田でも、期限付き移籍したチームでも十分な実戦経験は積めなかった)。

もちろん実力社会であるプロの世界において「4年もいて結果を出せなかったのならそれまで」と言われても仕方ないが、それでも、果たして磐田は彼らに対してベストのキャリアを提供できたのか?もし彼らが大学なりでバリバリ4年間実戦経験を積んでいたらどうなっていたのだろう?とは考えてしまう。

後藤の場合は特殊な事情が重なってしまったが、Jリーグ(特にJ1)に行くよりも、セカンドチームのある海外の方が実戦経験が得やすく、かつ給与も良い(Jリーグの場合誰でもC契約から)という状況になってしまっており、日本語が使えて私生活で不便がないという部分以外では魅力的な部分が少ないように思う。。

最近だと高卒でボルシア・メンヒェングラートバッハとプロ契約した福田師王がセカンドチームからトップ昇格するという事例も出てきており、現状若手の海外流出を止められない状況になっている。

若手の成長のために期限付き移籍をうまく活用するという方法もあるが、自チームで常に抱えながら、よきタイミングでトップに上げれるセカンドチームがあるかどうかの違いは選手目線だとかなり大きいだろう。

 

雑感

スポーツ選手の多くは基本的に高いレベルでやれるならやりたいと思う生き物なので、フットボールの世界において欧州でチャレンジしたいという気持ちを止めることは、今のところ無理なことだろう。

とはいえ、ポンポンと有望な若手がJリーグの世界で見ることなく(見れても僅か1年とか)外に出てしまっていることを放置していいのかといったら別問題となってくる。

最近だとFC東京の熊田直紀も所属元のクラブでは満足に試合に出れていないのにベルギーからオファーが来て、移籍しそうになっている。

以前はJ1のいくつかのクラブがU-23のチームをJ3に作っていたが、それもなくなってしまった。

お金の問題だったりで、簡単にセカンドチームを作れないというのは重々承知しているのだが、それでも昨今の状況を見ていると仕方ないことだよねとも言ってられなくなっている。

大学を育成機関の一つとして考えるのはいいとは思うが、それはあくまで一つの選択肢であって、プロクラブが主体的にそういう場を設けれるようになってほしいなと今回の移籍報道を見て思うのだった。

 

<おわり>