ロティーナ「日本人はトライが少ない」スペインの名将が東京Vに来て感じたこと

ティーナ「日本人はトライが少ない」スペインの名将が東京Vに来て感じたこと 抜粋元:https://sports.yahoo.co.jp/column/detail/201706050006-spnavi?p=1
――J2を戦ってみて最も驚いたことは何ですか?  一番驚いたのは選手の質の高さだ。技術レベルが高く、フィジカル面でもいいものを持っている。ただ、テクニカルな選手が多い分、1対1の突破を得意とするようなサイドアタッカーは少ない。スペインにはそうしたタイプの選手が非常に多い。J2にはボールさばきのうまい選手が多く、中盤の層はかなり厚い。全てのチームに技術レベルの高い中盤の選手がいる点には驚かされたし、スペインにはこれほどの層の中盤の選手はいない。
――ただ、私は日本ではボールさばきのうまい中盤の選手を育成しすぎていて、GK、センターバック(CB)、センターFWといったポジションの選手をきちんと育成できていないと考えています。  国外のリーグを初めて見る時、そのリーグの特徴をつかむためには2つの方法がある。1つはとにかく多くの試合を見ること。もう1つはより効率的な方法で、ゴールのハイライト映像を見ることだ。ゴールを見ればそのリーグが持つ特徴、チームや選手の質を知ることができる。よって、まず私はJ2のゴール映像を見て、このリーグの特徴を把握した。その後に昨季の東京Vの失点を全て、何度もチェックした。そこで分かったことは、J2には守備側から見た時に避けられるゴール(失点)がたくさんあるということだ。  失点は3つのタイプに分類できる。1つ目が「避けることのできない失点」で、ゴラッソ(スーパーゴール)が典型だ。2つ目は、例えばGKのパンチングミス、CBのクリアミスなど「ヒューマンエラーによる失点」で、シーズンにおいて一定数ある。3つ目が「避けることのできる失点」。ポジショニングミス、カバーリングの遅れなどに起因するもので、守備の戦術コンセプトを知っていれば、実行していれば避けられたゴールだ。実はJ2というリーグはこの失点が非常に多い。  私が東京Vでプレシーズンから取り組んでいるのはこのタイプの失点を防ぐことだ。実際、シーズン序盤からこのタイプの失点は確実に減っている。監督にとって、ディフェンスの選手に守備を教えることは攻撃を教えることに比べれば難しいことではない。
――確かにこれまで私も何度かスペイン人の指導者、サッカー関係者とJリーグ、育成年代の試合を見る機会がありましたが、「攻撃側のメリットよりも守備側のデメリットから生まれるゴールが多い」という意見を聞くことが多いです。  その傾向はあるだろう。だからこそ、育成年代から守備の個人戦術を教えていく必要がある。現代サッカーにおける守備戦術では、ゴール前でフリーな選手というのは生まれにくくなっている。そうした選手が生まれるとすれば、守備側の個人戦術の実行ミスによることが多いのだ。  今、チームではゴール前でフリーの選手が生まれないような個人戦術、守り方を教えている。そこについては比較的うまくいっていると思う。ただ、守備の戦術コンセプトはできる限り育成年代の早い段階から教えられるべきだと思うし、それを教えることは難しいことではないと思う。
――日本サッカーの特徴としてボール保持(ポゼッション)はうまく実行できるようになっています。しかし、ボールを前進させることがうまくないと私は考えています。  サッカーにおいて、ゴールを決めるためには失敗しなければならない。バスケットボールの伝説的プレーヤーであるマイケル・ジョーダンは「数え切れないほどの失敗をしてきたからこそ、成功できた」といった趣旨の言葉を残しているが、サッカーでも同じことが言える。  ラストパスをして味方が失敗するくらいなら、「自分でシュートを打って失敗しなさい」と私は選手に言っている。ゴールするためには、多くのシュートミスをしなければならないのだ。日本の選手からはミスに対する恐れを感じる。足でボールを扱うサッカーにミスはつきものであり、ミスは当たり前に起こるものと考えている。もちろん、ドリブル突破を10回試みて全て相手に奪われるようなら監督として怒るが、10回中、3、4回成功して決定機を作り出せるのであれば、ドリブル突破は選手にとっての強みであり、監督はトライさせる必要がある。  日本でそうしたトライが少ない理由は国民性から来ているのか、教育から来ているのかは分からない。私は日本人選手を指導していてトライし、失敗することの少なさに物足りなさを感じている。
――東京Vでは、そうした日本人特有のメンタリティーをうまく変えていると思いますが、どのように変えることができたのでしょうか?  まだ変えることができたとまでは言い切れないが、選手に多くの選択肢を持たせたうえで、積極的なミスはあってもいいという雰囲気は作り出せていると思う。あと、日本人選手への指導で難しさを感じる点は、ピッチ上で選手が判断を変えられないことだ。私のチームではスローインも含めてセットプレーをかなり綿密に用意して試合に臨むのだが、事前に用意していたことと少しでも異なる状況があれば、選手が見て、考えて、判断し、時にプランを変える必要がある。しかし、こちらが用意したこと、伝えたことをそのまま実行するケースが多いため、そこは選手に「見なさい、考えなさい、判断しなさい」と伝えている。  サッカーでは全く同じ状況が繰り返されることはない。全く同じように見えても、相手が違っていたり、時間帯が違ってくるため、最終的には選手が自ら主導権を持ってプレーを決断していかなければならない。逆に言うと、監督は選手に要求したプレーを選手が自ら判断して変えた時、その決断を受け入れる必要がある。
――プロの世界であっても選手に戦術を教え込み、選手を育成できると考えていますか?  監督は選手を納得させる必要がある。われわれの場合、こうした時代であるため、映像を用いて納得させるようにしている。また、これは日本のアドバンテージだと思うが、日本人選手は学ぶことに飢えている。スペインの1部、2部には「もう十分サッカーを知っている」と考え、学ぶ意欲に欠ける選手がいる。
<抜粋おわり>