J1清水エスパルス、ロティーナ体制の頓挫 規律ある戦術 体現苦戦【オレンジの難路㊤】

J1清水エスパルス、ロティーナ体制の頓挫 規律ある戦術 体現苦戦【オレンジの難路㊤】
「選手が自分たちのプレーモデルを理解して心地よくプレーし、そのサッカーを観客に楽しんでもらう」。1月、初めて練習の指揮を執ったロティーナ前監督は今季の目標をこう語った。 それから10カ月後。選手たちは戦術の体現に苦しみ、躍動感を欠く試合を続けていた。低空飛行のままの成績はJ2降格圏の土俵際まで追い込まれ、指揮官は解任された。
 2019、20年と2年連続でリーグ最多失点を喫し、下位に沈んだ清水。C大阪で強固な守備を基盤に上位争いをしたロティーナ氏の監督就任は、巻き返しを図るのにうってつけの人選に映った。
 チームは指揮官が植え付ける緻密な戦術の習得に努めた。特徴的だったのは「これほど細かい人は初めて。今まで清水がやっていた守備とは異なる」と選手が語るポジショニング。全員が適切な位置取りで自陣に鉄壁を築き、隙を与えない「失点をしない戦い」がベースとなった。
 守備時のバランスを保つため前掛かりに攻めることはせず、攻守の切り替えが激しい展開を避けるためカウンター攻撃の回数も限られた。堅く守り、限られた決定機を仕留める-。そんな「勝利の青写真」を選手が描けないと、勝ち点は逃げた。
 指揮官は自身やイバンヘッドコーチが担当する練習をメディアにほとんど見せなかった。“鉄のカーテン”の中で積み重ねたのは、分析を基に対戦相手の強みを消し、弱みを突く準備。与えられたプランに沿って毎試合変わる戦い方に、選手からは「自分たちの形がない」「積み上げが少ない」と、次第に戸惑いの声が漏れるようになった。
 夏に補強した選手を次々にメンバーに組み込んで個人の能力に頼る色が濃くなると、求心力にも陰りが出た。11月3日のFC東京戦は生命線であるはずの守備が4失点と崩壊し、ロティーナ体制は終わりを告げた。
 後任を託された平岡監督は前体制で築いた規律ある守備を維持しつつ、攻守に積極性を求めた。攻撃面に自由度が増したことで選手は躍動。4戦負けなしで残留をつかんだ。理詰めのスペイン人知将の哲学は、低迷が続くオレンジ軍団には特効薬とならなかった。 開幕前には実績ある監督の招へいや大型補強によって注目を集めた清水だったが、今季も最終節まで残留争いに巻き込まれた。難路をたどった1年を振り返る。
<おわり>