シーズン総括(清水エスパルス編)

早いもので今シーズンも終わりました。

清水の試合も、8割以上は見たと思います。なので、個人的な総括(感想)を残しておこうかと思います。

0、はじめに

最初になぜ私が今シーズン清水を追うことにしたのかを書いておきます。

私は同じ静岡県の磐田をホームタウンにするジュビロ磐田のサポなのですが、昨シーズンクラブが新たな挑戦をし目先の結果を出せずに苦労しました。その結果、クラブは以前失敗したやり方と同じ方針に戻す決断をしました。私はこの決断に酷く落胆をし、クラブを応援する気持ちが0に近い状態になりました。

そんな中、ライバルと言われる清水が日本で実績のあるスペイン人監督ロティーナを招聘しました。

私は磐田がフベロ監督体制でうまくいかなかったことの一つにクラブの文化と相反するものであったことが大きいと思っています。スペインと言ってしまうと主語が大きくなりすぎてしまうのですが、スペイン系のフットボールと静岡という地は非常に相性が悪いと思っています。

なので、清水がどういう歩みをするのかは非常に興味深く感じ、追ってみたいと思ったのです。

1、選手の入れ替わり

昨シーズンの終了時点と今シーズンの終了時点の所属選手の比較が下の画像です。

(引用元:https://www.siraida.com/index.php

(左が2020、右が2021)

index.png

2020年から残っているのがGK(大久保)、DF(立田、ヴァウド、エウシーニョ、奥井、)、MF(竹内、宮本、西澤、、中村、ヘナト、鈴木)、FW(カルリーニョス、後藤)と大幅に入れ替わっています。シーズン当初のものだと、もう少し残っている選手もいますが、戦力として計算されずにレンタルで夏に出ていったことで、これだけ選手は変わってしまいました。

選手が大幅に変わってしまうことは個人的には当然だと思っています。希望だけを語れば、できるだけ今いる選手(愛着のある選手)でチームを作り上げてくれた方がサポ目線でいえば嬉しいし、クラブ目線でいえば費用も抑えられます。しかし、クラブの文化と相反するものを取り入れることの難しさは磐田でも感じたし、他のクラブでも外国人監督でうまくいかないパターンは見てきました(普通に監督に原因があるパターンもありますが)。

なので、新たなものに適応できる選手、もしくはすでに適応できていると証明されている選手を連れてくる必要があったのです。

2、スペイン人監督と静岡の相性

スペイン人監督というと日本で有名なのはペップだと思います。ペップが率いたときのバルサは世界中を魅了しましたし、同時期のスペイン代表も魅力的でありました。実際にリーガを見ると、当然様々なスタイルのチームがありますが、スペインフットボールとは?と問われたときにパッと頭に浮かぶのがペップのフットボールである人は少なくないのではと思います。それくらい影響力がありました。

さて、そんなペップと同じスペイン人監督であるロティーナでありますが、ロティーナ(+イヴァンコーチ)も考え方の方向性としてはペップ寄りであると個人的には思っています。「いやいや、それはないでしょ。本当に清水の試合見てた?」と思う人もいるとは思いますが、ここで言いたいのはあくまで考え方の方向性です。ポジショナルプレーと呼ばれる、今ではそれほど特別でなくなった考え方ですが、清水もやろうとしていたことはこれだと思います。

私が個人的に思っている静岡のフットボールに対する印象は、小さい局面局面をクリアしてボールを前に進めていけばいずれはゴールに辿り着くというものです。「前にボールを進められるなら、どんどん進めましょう。マークが厳しい?ならそのマークがいながらもボールをキープをして、ボールを前に進めるようにしましょう。」といった感じに局面局面で問題を解決していけば、最後にはゴールが待っているという感じです。

一方、ロティーナはというと、闇雲にボールを前に進めることを嫌います。縦パスをできる状況でも、パスを受ける選手の状況や他の選手のポジショニングによっては、ボールを前進させずにボールを下げて攻撃をやり直すことを求めます(リサイクルと呼ばれています)。

私はこの部分が静岡、大きく言ってしまえば日本フットボールとの相性が非常に悪いと思っています。静岡というとフットボールの盛んな地域で、昔は全国でもトップレベルの地域であったこともあり、テクニカルで華麗なフットボールを好まれる印象ですが、私の印象としてはボールや人が派手に動き、試合のテンポが非常に早いものが好まれる印象です。

先ほど、静岡のフットボールに対する印象を書きましたが、あのようなフットボールをしていると試合のテンポが非常に早くボールが行ったり来たり(いわゆるオープンな展開)になることが多くなります。このフットボールを”面白い”と定義すると、ロティーナのやろうとしていることは非常に退屈に”映り”ます。

これはどちらのフットボールが良い悪いの話ではありません(人によって好みはありますが)。現実として、好みのものとは反対に近い部分にあるであろうものを取り入れようとした際に何かしらの問題が発生するのは容易に想像できます。私もフベロ監督のときに縦パスでボールを前進できそうなのにボールを前進させなかったり、クロスを入れられるのにやり直したりすることにモヤモヤすることがあったのも事実です。フットボールはミスが多く起こるスポーツなので「ボールを前に進めていれば…」とか「クロスを入れれば何か起こるのでは?」といった”たられば”を考えやすいスポーツです。しかし、そういった考えをロティーナであったりフベロは好んでいないように見えました。「ボールを無理に前に進めて前向きでカットされてカウンター食らったらどうするの?」「崩し切れていないのにクロス入れてボールを失って、相手に攻撃の機会を与えていいの?」といった感じにです。なので、フットボールに対する考え方をクラブに関わる人皆が変える必要が出てきます。これを面白い!!と思う人もいれば、面倒だと思う人もいるでしょう。

3、なぜロティーナでうまくいかなかったのか

日本での確かな実績があるので、いきなり清水が強豪になるということはないにしろ、それなりうまくやるだろうと開幕前は思っていたのですが、想像以上に苦労をしました。

個人的に思った理由は2つ。

1つは、先ほど書いた静岡という地の文化(フットボール)に合わなかったこと。

そして、もう1つはやりたいことに合った選手を揃えられなかったことだと思っています。

(先に書いておきますが、ロティーナ側に問題が全くなかったとも思っていません)

外国人監督(主に欧州方面)が日本に来て苦労することの一つが戦術理解度の部分になってきます。この部分に関しては、いろいろなところで指摘されているので、ほぼ間違いなく多くの日本人選手の弱点です。

だったら、そういうところを教えるのも監督(指導陣)の仕事でしょ?と思う人もいるかもしれないが、問題は教えないといけないスタート地点にあると思っています。彼らの国では”当たり前”と思われるようなことが、日本だと”当たり前”でないということが多々あるのではと想像されます。とある本でイタリアのフットボール関係者が日本代表のフットボールを見て「こんなこと(イタリアなら)アマチュアでもしないぞ!!」と指摘していました。「こういうときにこういう動きをするなんて当たり前でしょ?えっ、違うの?マジかよ、ここから手をつけんのか…」といことが多々あるのではと思います。

でも、ヴェルディセレッソでの経験があるわけだし、事前にそれに対する準備はできたのでは?という考えもあります。私も、この経験があるからこそ静岡にあるクラブをも変えることができるのではと思ったわけです。しかし、予想よりも全然物事がうまく進みませんでした。その理由の一つにロティーナのやりたいことをピッチ上で通訳できる選手がいなかったことだと思う。

ヴェルディだと当初はベテランである橋本が指導陣との間にうまく入っていたようだし、セレッソだと影響力のある清武がスペインフットボールに理解がある選手だったし、神戸でリージョの指導を受けていた藤田がいたりと実際のピッチ上で方針を示せる選手がいました。

では、清水はどうでしょう?

ティーナの下で伸びた片山を獲得しましたが、いきなりリーダーになるようなタイプではないですし、大きな実績があるわけでもありません。誰もが知るような選手であれば外様であろうと先頭に立って導けるかもしれませんが、それを片山に背負わせるのは荷が重いです。それまでいた選手も、そういったことをやれる選手はいませんでした。この部分が違いが思った以上に影響が出たのではと個人的に推測しています。

であれば、できる選手を連れてくるしかありません。夏にも積極的に動いた結果、最初に書いたように選手が大きく入れ替わったわけですが、クラブとしてはその補強がなくても、ある程度できると算段していたのではと思います。しかし、うまくいかずに補強しました。補強したけど結果が出ない。当然いろんな方面から不満が出る。そして、最終的には0-4という結果がトリガーとなり事実上の解任となったのだと思います。

4、平岡監督就任。そして残留へ…

ティーナが解任となり、コーチであった平岡さんが暫定ながらも監督となりました。

4試合で3勝1分という大変素晴らしい結果を残し、クラブを残留へと導きました。この成績は称えられるべきものであります。

しかし、清水がどう変化するのかを楽しみにしていた私個人としては非常に残念にも感じました。

極力リスクをかけずに攻撃は選手たちの判断の比重が大きくなった、いわゆる和式と呼ばれる類のものになっていました。清水というクラブにとっては慣れた形に戻したという方が正しいかもしれません。

ただ、そういう判断をした平岡さんを批判したいわけではありません。残留が最優先のミッションとなった状況で、混乱しているであろう選手たちに最低限の約束事を伝え、細かく指導をすることをあえてやめたことは想像し難くないです。やるべきことをシンプルにしたことで、選手たちが慣れ親しんだ形になっていくというのは必然的なことだと思います。

しかし、それでも違った形で結果を”残せてしまった”という事実は意外に重いです。ロティーナ元監督で結果が出なかったことに不満を感じていた関係者は少なくないでしょうし、そこにきて平岡監督のやり方で結果が出たとなれば、やはり清水はこういう戦い方がいいのだという流れになるには十分すぎます。外国人監督でうまくいかないシーズンが続いていることからも、清水には日本人監督なのではという結論になってもおかしくありません。

5、雑感

私が思い描いていた清水の成功イメージからすると、今シーズンは間違いなく失敗したシーズンでした。静岡の地に欧州のフットボールのエッセンスを取り入れることの壁を再認識させられました。

川崎やマリノスといった生みの苦しみを乗り越えたクラブが現状上位にいることを考えると、今シーズン終盤の結果が将来にとっていい結果であったのかはわかりません。

現実的にはカテゴリーによってクラブの資金力が変わるので、カテゴリーを落とさずに変化するのが理想ですが、苦しくなったら監督を切って、とりあえず調整役の人材に任せて乗り越えるということをやっていて実を結ぶのかはいささか疑問です。

個人的な勝手な思いとしては清水には欧州フットボールの再チャレンジをしてほしいと思っていますが、それを望んでいる人が果たしてそれほどいるのかも微妙なところです。

もしかしたらオープンな展開で、結果の部分を運(ギャンブル)にある程度任せる方が幸せになれる人が多いのかもしれないという、あまり嬉しくない結論で総括を終わりにしたいと思います。

<おわり>

【追記:2021年12月10日】

執筆後にDAZNの清水のドキュメンタリー(第1回)を見て、その後に最終節を見て思うことがあったので、記しておこうかと思います。

まず番組内での指導陣のミーティングの会話をお読みください(番組内での字幕をそのまま引用)。

ティーナ「試合の感想を教えて欲しい。」

コーチ(誰かは不明)「守備のところでプレスに行くのかいかないのか、前と後ろが連動していなかった。」

篠田コーチ「ちょっと構え過ぎた守備でボールホルダーへの寄せも少し遅れ後手後手のようなプレー。」

(ミーティング後)

小寺通訳「前方でプレスをかけたい選手に戦術を受け入れてもらわないと。」

イヴァンコーチ「選手たちは前からプレスに行きたいが、それで昨季70失点している。選手がどうしたいかも大切だが、まず失点を避けるために何をすべきか。」

ティーナ「そうなんだ、これが避けるべきプレー(映像を見る)。」

イヴァンコーチ「この選手は迷うことなく左右に動き出るべきだが、問題はプレーの判断を他選手に委ねてしまっている。よりコンパクトな4-4-2にした方が良い。」

ティーナ「これは早急に解決をしなければ・・・」

小寺通訳(たぶん)「シンプルに変えるべき。」

このミーティングの内容だけでも、割と初歩的な部分から壁にぶつかっている感じがわかります。

篠田さんの意見との食い違いも気になるところです。たぶん、ロティーナチームと既存のコーチ陣との間にはやりたいフットボールに対する理解力の差があったのではと思います。

篠田さんの意見はどちらかというと選手のやりたいことに寄り添っている部分を感じるので、442のブロックを作ってプレスのラインを低くする手法をやり続けることに納得はいってなかったのかなと思いました。

昨シーズンの70失点というのはあまりに多いし、高い位置からプレスを掛けるには選手の質的にも厳しいと思います。それでも前からいきたいと選手が思うのは、自分から動くことで守備をやっているという気持ちの面が大きいのではと思います。本来やりたいことの質を高めることよりも、自分はこうしたいとなってくるのはそういった面があってのことではと思います。

引用した部分は本編のほんの一部なので、是非とも見ることをお勧めします。

そして、この番組を見た後に最終節のセレッソ戦を見ました。

442というシステムは同じですが、選手たちのプレーはロティーナが目指していたものとは大きく変わっていました。

ボールを奪えば、素早くボールを前に進めることが多く、見た目上では非常にアグレッシブな感じがしますが、ギャンブル性の強いフットボールになっていました。

ティーナのときにあまり使われなかった西澤や後藤がスタメンでしたが、彼らのプレーを見ていると、なぜ使われなかったのかはなんとなくわかりました。

しかし、今の戦い方だと西澤は生き生きとプレーしていたし、得点も決めたりと非常に充実していそうでした。

選手から平岡さんの続投を支持する声も聞こえたりと、この戦い方をポジティブに捉えている人は少なからずいそうです。

ただ、平岡さんが就任してからの4戦は浦和を除くと順位によって来シーズンに何か大きな影響があるという立場でもなく、戦うことに対するモチベーションが難しい相手が多かったのも事実です。

ティーナ→平岡という戦い方の変更によるリバウンド効果で4試合は結果が望むものになりましたが、これをシーズンの頭からやって同じような結果を得れるかといったら違うと思います。

まだ来シーズン誰が監督をやるのかは発表されていませんが、もし平岡さんが続投で、篠田さんもコーチで残るということになれば、非常に厳しいシーズンになるのではと思います。

ティーナのやり方に拒否反応があったり、適応できない選手がいることは判明しているので、外国人の監督を連れてくるというのは現実的じゃないかなと思います。

ただ、このフットボールを続けた先に何かあるのかは非常に疑問です。やりたいことをやって目の前のことに一喜一憂するのを続けることで、気づいたら手遅れになっているということにならなければいいなと他サポながら思いました。