「違いとレベルが低いは、まったく異なる話」。酒井高徳、ドイツでの経験を経てJリーグを語る
――浦和戦のあとだったか、酒井選手の試合後のコメントで興味深いものがありました。Jリーグのプレスの掛け方やデュエルの部分がドイツと比べると緩い、というような。それはヨーロッパで長くプレーした選手だからこそ感じられるもので、ありがたい指摘だと思います。差し支えなければ、もう少し詳しく聞かせてもらえますか?「まず前提として、これは批判とかではまったくなくて。僕は日本人として、日本の良いところをたくさん知っているし、日本が海外に近づくために、自分も海外に近づくために、いろいろ考えながらやってきたし、これからもやっていきたいと思っていて。その上で話しますけど、プレスの掛け方については、日本はむしろ、ヨーロッパから見ても高いレベルで組織的にプレスを掛けられるんです。規律を守りながらプレスを掛けたり、引いて守ったり、絞る、カバーするといったことを真面目にやれる。逆に、海外では、それをなあなあにして、あり得ない形で失点することも多いんですよ」
――日本のほうが組織的に、しっかりプレスを掛けられている、というのは意外でした。
「ただ、問題なのは、せっかくプレスを掛けているのに、そこで取り切る文化がないこと。ドイツでは、最初にプレッシャーを掛ける選手は、ほとんど取れると思ってない。2人目もフィフティ・フィフティで取れたらいいな、くらいの感覚。でも、3人目は80%の確率でボールを取り切る。そうやって連係してプレッシャーを掛けに行くんです。でも、日本では、パッパッパッと寄せてコースを切っているのに、最初の1人がかわされると、それがすべて台無しになってしまう。
一方、ドイツでは、1人目が勢い良く当たりに行き、かわされても2人目、3人目がすぐに行く。ボールホルダーに常にプレッシャーを掛けてヘッドダウンさせ、パスコースを限定しているから、周りの選手はインターセプトを狙いやすい。つまり、守備のポジショニングがすごくオフェンシブなんです」
――なるほど。1人目がかわされるとスカスカになるのが日本で、そうならないのがドイツだと。
「そうなんです。日本では、みんなが寄って来ているのに、連係してないから簡単にサイドチェンジを許し、チーム全体がガーッと下がらざるを得ない場面がある。実際、この3試合でも経験しました。だから、ボールを取り切るという意味でのプレスの掛け方、デュエルの部分に関しては、海外とは差があります。僕自身もやっていて、そこさえ掻い潜れれば、(マークは)どんどん剥がれていくな、と感じますからね。ただ、こうしたことを囲み取材ではしっかり伝えられないから難しくて(苦笑)」
――今回は、しっかり伝わるように原稿にすることを、お約束します(笑)。
「はい、お願いします(笑)。一部だけを切り取ると、僕がJリーグを批判した、という感じになってしまうので。そんなつもりはまったくなくて、実際に対戦して、うまいと思った選手や、嫌だなと感じた選手はいるし、チーム戦術がハマらなかった相手もいる。Jリーグのレベルが低いなんて、まったく思ってないです。違いとレベルが低いは、まったく異なる話なので」
――昨シーズンは、ドイツ2部でプレーされました。ドイツ2部とJ1だったら、どちらのほうが、レベルが高いんですか?「難しいですね。選手個々のスキルで言ったら、J1のほうがレベルは高いかもしれません。ただ、サッカーは足下だけじゃないんだよ、っていうことを僕はドイツで教えられた。プレッシャーを受けた状況でどうプレーするのか、肉弾戦もあるし、劣勢の中でセットプレー1本でゴールをもぎ取る、だったり、ファウルを貰うようなプレーもあれば、相手にサッカーをさせないほど激しくプレーしたりとか。そうしたボールを使う戦術以外のことをドイツで学んできたので。
そういう意味で言うと、Jリーグのチームがドイツの2部に入ったら、サッカーをさせてもらえないと思いますね。ドイツの1部、ブンデスリーガのチームでも、ポカール(カップ戦)で2部のチームと対戦するのを嫌がるくらいですから。だから、どこを見てレベルが高いと言うか。日本のほうが勝っているところもあるんですけど、試合の勝ち負けという点ではたぶん、ドイツ2部のほうが強いんじゃないか、と思います」
――まさに、そうしたボール以外の部分の重要性を、神戸やJリーグで伝えていきたい?
「そうですね。僕自身、うまい選手じゃないので、いかに力強さやパワー、迫力を出していくか。僕がドイツで経験してきたことを伝えるのは役割のひとつ。ヨーロッパから戻ってきたからといって、シザースで鮮やかにかわして、ヒールキックでいなして、とかをしようと思ってないし、できもしない。サッカーの本質はそこじゃないと思っているし、そこじゃない部分の重要性をすごく感じているので。今も練習中、若手に伝えたり、チーム全体に声を掛けたりしているところです」
――具体的には、どういったことを?
「さっきのプレッシングの話で言えば、『(相手に)返さすな、返さすな』とか『寄せろ、寄せろ』とか。まだチームに合流して日が浅いので、伝え切れていない部分もあるんですけど、徐々に自分の経験をすべて還元していきたい。ただ、大事なのは、チームが調和することであって、自分の意見だけを伝えることじゃない。自分の経験をチームにどうプラスαするか。チームメイトがどう思っているのか、チームとしてどうなのかを踏まえた上で融合させられるといい。
それは僕だけの話じゃなくて、アンドレス(イニエスタ)やダビ(ダビド・ビジャ)、トーマス(フェルメーレン)に関してもそうで、彼らが持っているものを、チームにうまく融合させるのがベスト。それができたとき、“本当のヴィッセル神戸”になると思うので。まだ少しバラバラなところがあるので、全員ですり合わせていきたいですね」
<抜粋おわり>